Two for the Road いつもふたりで

"Due per la strada" --- ミラノに住むふたり、橘凛夫婦が、徒然とイタリア生活やヨーロッパの綺麗な風景、旅行記を綴ります。

イタリアの誤解を解きたい

お題「どうしても言いたい!」

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(封鎖前日のマジョーレ湖の展望)

はじめに

当サイトでは、特にイタリアについて面白おかしく書いてますし、
場合によってはものすごく酷いイタリアの悪口も書いてあるかもしれません。
(覚えてなくてすみません)
ただこれは現地在住者の愚痴みたいなもので、ココがヘンだよ〜的なノリです。
イタリア、ごめんね、私だってジョークが言える人間と言われたかったのだよ。

でも全く根拠のない事でイタリアを悪く言われるのは、何か違います。
しかも現地にいるわけでもない上に、現地の情報を得てもいないような人たちに、
これがイタリアで起きている、という偏った報道をして欲しくない。
寧ろイタリアは善処している/していたのに、何故それを報道してくれないのか。

その思いから今回の投稿を書きました。
流し読みでも結構ですので、是非ご一読いただけると。

イタリアの誤解を解きたい

今回のコロナウイルスの件、ニュースというのが如何に不確実か、我々に考えさせてくれます。母語で得られる情報と、イタリア現地で得ているイタリア語、英語の情報との違いがとても大きい。我々も日本人なので、日本のニュースをメインに観ているのですが、現地で報道されている事と、日本で報道されている情報の相違が大きくて、非常に戸惑っています。

確かに我々は今外出自粛しておりますし、窓から眺める外も閑散としています。高齢者ばかりとはいえ死者数も日々増加していますし、医療用のベッドが不足して展示会場を使うみたいなニュースも聞いているし、引退した医療関係者を引っ張り出すみたいなニュースも観ています。

それでも今回のイタリア政府の対応は素晴らしい、と誉めちぎりたいです。今回の、鎖国のような移動自粛、国境封鎖は、無自覚の感染者からの拡大をこれ以上阻止するために、自国の経済を犠牲にして、国民から不満を言われても、絶対に阻止するという気持ちがしっかり表れています。寧ろ、ヨーロッパ各国にいる私の同僚も、話す人全てイタリア政府の対応を称賛してくれます。

それなのに、何故日本のニュースはイタリアをあたかも、感染拡大の策を全く取らず、他国まで感染を拡げた中国のように報道するのか。下記の記事みたいに、イタリア政府の対応がダメだの、本当に現地情報を得てから発信しているのか、疑いたくなるようなニュースばかり。下記の記事を例に、如何に情報が100%信頼できないか、伝えたいと思います。

イタリアがダメな国だという風潮

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200317-00071156-gendaibiz-int

なぜイタリアはこのような事態になってしまったのだろうか。
 
「最初の時期に感染源を見逃したため検疫が遅れた」「事態が悪化してから対応しているうちにさらに感染者が急増して悪循環化した」など、理由はいくつも考えられる。


 なによりもはじめは「インフルエンザと変わらない」「80%が軽症なのだから大丈夫」「メディアが大げさに伝えている」と、外出を自粛せずに普段通りの生活を続け、危機感に欠けていたことも感染拡大の異常事態を招いたのではないか。 

 

<中略>

 

イタリアは早期に感染者を確認し、隔離・検疫をするべき時期を逃したために感染者が急増した。

 感染者を早期に隔離し、厳しい入国制限、検疫、隔離によって感染を広げない政策を徹底させた台湾やシンガポールとは正反対に、イタリアは感染者の増加を遅らせることに失敗したのだった。

この記事だけを取り上げるのはフェアではないですが、今朝一番腹立たしかった記事だったので取り上げます。

確かに色んな記事で取り上げられているような、イタリアの医療従事者が少ないのは事実ですし、ベッド数が確保されていない、人工呼吸器が足りない等の話はこちらでも聞きます。この記事のジャーナリストはどうやらドイツに関わりがある方なので、後半のドイツに関する情報の真偽は私も分かりません。

ただ、前半のイタリアに関する情報は、あたかもイタリアが今回の新型コロナウイルスを甘くみて感染拡大予防策を打たなかったような印象を受けます。感染拡大を防げなかった挙句、検査ばっかりして、挙句に治療が出来ない、ベッドが足りないなどの医療崩壊を起こしているダメな国だと。そんな「ダメなイタリアのせいでパンデミックが拡がった」論調が、そもそも日本のニュースや日本人の認識にあるように思えます。

イタリアのダメさ加減は当ブログでも何度も書いていますが、それとこれとは別です。どうでも良い話ですが、今回スーパーの入場者数規制でスーパーの入場待ち行列を間近で見て、「イタリア人も列に並べたのか」という冗談も置いといて。

これが如何に事実と違うか。

ここで2月3日時点の、JETROのビジネス短信を引用させていただきます。

https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/02/22929c3f2cf00094.html

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、イタリアでも緊張が高まっている。1月30日には、イタリアで初めて2人の感染が確認された。2人はイタリアに旅行に来た中国人観光客で、現在、ローマの医療機関で治療を受けているという。

イタリアでは1月22日、保健省の指揮の下でタスクフォースが設置され、各種情報収集や国際機関、専門機関などとの連携、また国内での予防対策などが進められていた。ローマのフィウミチーノ空港には武漢からの直行便が週3回就航しているほか、中国全土からはローマのフィウミチーノ空港に週34便、ミラノのマルペンサ空港には週25便就航しており、中国から到着した便については、着陸後に係員が機内に乗り込み、発熱などの症状がないか確認し、疑わしいケースについてはすぐに隔離させるなどの水際対策が取られていた。また、搭乗者に対しては旅程や行き先などを提出させていた。

しかし、世界保健機関(WHO)が緊急事態宣言を発表したことを受けて、1月31日にイタリア政府も非常事態宣言を発した。また、中国とイタリアをつなぐ全ての便を停止とすることを発表した。ロベルト・スペランツァ保健相も「2003年にSARSが発生した時と同様、必要な予防措置を講じ、国内の警戒レベルも高めていく」と表明している。

お分かりの通り、発生直後に感染者の早期確認を徹底していますし、危機感に欠けていたとは到底思えないような内容です。

このイタリア政府の対応は非常に素晴らしく、その後の感染者をしばらく出していません。これは下記GIGAZINEの記事で取り上げたData Explorerからも明らかです。

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上記のグラフで分かるように、最初の感染者から殆どフラットな状態が続き、そこから20日後に大きな伸びが見られます。もし最初の感染者の時点で防止策を打たず、感染拡大が進んでいたとしたら、日本やアメリカのような緩やかな伸びを見せると思います。

ちなみに私は1月最終週、ドイツ南部に出張していました。ミュンヘン空港で同僚にピックしてもらったのですが、ちょうどその前日ドイツで最初の感染者が出て、しかもそれがその同僚の顧客であり彼の友人が勤めているべバストWebasto社(ミュンヘン郊外の企業で武漢に支店有り)で出たとの事でした。その時、ミュンヘン空港では特に体温チェックをされなかったのですが、ミラノへ帰国した際、防護服とマスクをした空港関係者に体温チェックをされました。これはミュンヘンからの便だけではなく、全ての到着便の降客が対象です。

私はその後2月の中旬までにウィーン、パリと出張しておりますが、それらの空港では一切体温チェックはされていません。これだけで、イタリア政府が既に危機感を持っていたが分かると思います。

2月頭の中国の春節という、中国人観光客がゲルマン民族大移動のように動くあの時期は、イタリアの観光業にとってもボーナスのようなもの。そんな春節の時期に観光客を制限してでも、イタリア政府が経済より自国内の感染拡大防止に務めていた事実は、中国との距離が近く既に感染者が出ていても入国制限をかけなかった日本政府と比べると非常に分かりやすいとか思います。

もちろん比較に挙げた日本政府の対応を、私はあながち間違っていたとは思いません。中国との関係や、経済状況を鑑みると、簡単に入国制限をかけるべきではないし、それは他の国と比較しても同じです。ドイツだって高を括っていたし、韓国だって、米国だって、その時点ではイタリアほど厳しく制限していませんでした。少なくとも私にはそう見えました。

ただ、このブログで取り上げたかった事は、今やヨーロピアパンデミックの中心となってしまったイタリア政府が、当初から感染拡大防止にどれだけ苦心していたか、また今回のパンデミックがそれでも防ぐ事が本当に難しかったかを、日本に住み、日本のニュースを情報源とする同胞にどうしても知って欲しい、そんなイタリアを間違って認識しないで欲しい、そんな思いです。

 

ちなみに現代ビジネスのジャーナリスト福田直子氏の記事を取り上げましたが、他の記事も似たようなもんです。寧ろこの福田直子氏、ドイツに所縁のある方なので、きっとドイツの事が書きたかったんでしょう。それでイタリアを前文に置いたのかと思います。でも、だからといって日本で今誤解されているイタリアをあたかも常識であるように書くのは、読む側に間違った情報を与え、その情報を真実だと信じ込ませてしまう危険性があります。

情報リテラシー、という言葉がありますが、情報はそのまま信じ込むのではなく、情報を受け取る人間が精査していかなければなりません。ニュースというのは必ず書き手の主観が入ります。ここから客観的事実を抜き出すのが、情報リテラシーを育んだ人間です。ただ、ここまで間違った情報が蔓延していると、どうしたって専門家や現場に近い人間じゃない限り、客観的事実を抜き出すのは非常に難しいことでしょう。

とはいえ常に思うことは、百聞は一見に如かず。どうか、皆様にはマスメディアに書かれている情報を簡単には信じ込まないでください、とお願いしたく。またマスメディア関係者には、現地ソースに近い情報を、客観的事実をなるべく伝えていただくようにお願いしたく。

この投稿だって一個人の記事です。私だってネット上で無責任な発言をしたくないし、なるべく客観的事実を並べるように努めていますが、主観が少なくて客観的事実が多いだなんて言い張れません。でも、1円にもならないこのブログですら間違った情報を広めないよう努めているんですから、情報を飯のタネにされている方こそ、より広く、よりセンシティブに努めていただけると幸いです。

感染ルートについて

ところで、先日私は、今回のイタリアのパンデミックが如何に不運だったのか書きました。私もイタリアでの情報に踊らされていた者です。

前述の通り、イタリアの最初の感染者は1月30日、イタリアへ旅行に来た中国人観光客で、新婚夫婦二人ともに感染が確認されました。その後2月6日に武漢からの帰国イタリア人が一人陽性となったようで、これが前述のグラフで、フラットした部分の中での動きです。

次の4番目の感染者が2月20日、今回のパンデミックの感染源でした。この「第一」感染者はイタリアでは「Paziente 1」と呼ばれております。この方、名前も判明していて、ファーストネームがMattiaという名前で38歳男性であること、ランニングもするような健康な方であること、カザルプステルレンゴ在住であること、そして世界的企業でもあるユニリーバ社Unileverでマネージャーとして働いている事が分かっています。

ただ、この感染ルートがいまいち不明です。少なくとも中国への渡航歴はなかったようで、つまりPaziente 1の前、「Paziente 0」である感染者が他にいたという事です。

私が最初に聞いて、あるニュースにも記載されていたのが、Paziente 0は前述のドイツ・べバスト社という事でした。べバスト社の社員が無自覚のまま感染し、ミラノへ出張してこのユニリーバーのPaziente 1と接触したとのこと。しかし調べてみると、そんなニュースは数件しか出てこない。

寧ろ大多数のニュースで書かれていることは、このPaziente 1が接触した人の中に中国へ渡航していた人がいた、ということ。ただその中国渡航した方を調べてみたら、検査の結果陰性だったそうなんです。じゃあ一体誰から感染したのか。

下記英語記事にもありますが、1月後半には静かにイタリア北部へ忍び込んでいたのではないか、ということです。

これ、日本だって他岸の火事ではないんですよ。もう一つ皆様に知って欲しいのは、如何にイタリアが迅速に対抗策を打ち出しているか、です。

イタリアでは前述の通り2月20日パンデミックが始まりました。そして21日には既に最初の死者が発生し、22日の夜までにはパンデミックエリアである10のコムーネ封鎖、及びロンバルディア州内のあらゆる公的イベントを中止させる措置をとりました。既に各地で開催されていた謝肉祭も全て中止、一番有名なヴェネツィアのカーニバルも即刻中止でした。約2週間のクライマックス間近のタイミングです。さらに翌23日の夜には学校休校を決定するなど、その時点で取れる最大限のアクションを取ったと言えます。

ただ残念ながら、その後も感染は拡大し、それに呼応するように、3月2日の公共料金の期限延期等や企業への在宅勤務推奨とその支援に関する緊急措置を、そして現在の状況3月8日の個人の移動規制へと続きます。

我々が殆ど外出していないように、今や殆どのイタリア人が外へ出ていません。3月8日から1週間あまり、その間私が外出したのはスーパーと薬局へ2度。妻と息子に至っては一度もアパートの敷地から出ていません。幸い我々のアパートには広い庭があるので、天気の良いイタリア、春の日差しでポカポカ日向ぼっこしています。アパートの住人とも挨拶したり会話したりしますが、彼らもマスク着用している上に必ず1メートルは距離を置いて話します。

これでもまだ患者数増加が止まっていません。一部どこかで騒がれているように、中国やアジアで蔓延しているものとは本当に違う型なのかもしれません。でも果たして本当にそうなんでしょうか。

イタリアのPaziente 1が、無自覚の保菌者から感染した可能性があるように、無自覚の保菌者が封鎖前から既に沢山いた可能性もあります。今現在の封鎖は、そういった無自覚保菌者からの感染拡大を阻止する意味では、出来得る限り最大限のアクションかと思います。

日本もクラスター感染など、感染拡大しているにも関わらず、未だに人の行き交いが多いと聞きます。取引先も在宅勤務を始めたと伺っていません。でも日本には無自覚の保菌者はいないのでしょうか。

日本の清潔意識は高く、それ自体が一種の予防となっていることは間違いないでしょう。ただ、それが絶対的な予防になるのでしょうか。私はどうしてもそれが絶対的とは思えません。なんだか感染者数のピークが来るのをズルズル先に延ばしている気もするのですが・・・

まぁ、私も日本にいないので、勝手な事は言えませんね。

最後に

今回、在住者として非常に助かっているのは、在ミラノ領事館からの情報です。
イタリア政府の難しい緊急措置や発令などは、なんとなく意味が分かっても、
本当にその通りの意味なのか、パッと確信が掴めません。
なのに今回の件、毎日のように、たまに10分おきの間隔で、
イムリーに重要事項詳細をメールで送ってくれる在ミラノ領事館、マジパネェっす。
本当にありがとう、領事館!

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しかし在留届も今やオンラインで出来るようになったんですね。
日本の公的書類のアナログさは、保守的で遅いヨーロッパでも驚くレベルでしたが、
時代は変わるもんだ。